スタジオジブリの不朽の名作アニメーション映画『もののけ姫』において、圧倒的な存在感を放つ巨大なイノシシの一族の長「乙事主(おっことぬし)」。シシ神の森を守るために九州から遠征し、人間との激しい戦いに身を投じた誇り高き猪神です。
本記事では、乙事主の最期やタタリ神と化してしまった悲劇の経緯、山犬の女王・モロの君との深い関係性、そして名言や名前の由来に至るまで、多角的な視点から徹底的に解説します。
『もののけ姫』に登場する乙事主(おっことぬし)とは?その基本プロフィール

乙事主は、『もののけ姫』の物語後半に登場する、シシ神の森を守護する猪神の一族の長です。体長は通常のイノシシを遥かに凌駕するほどの巨体を誇り、長い年月を生きてきた証である白銀の毛並みと、深い知性を備えています。
一族の長として圧倒的なカリスマ性を持ち、シシ神の森が人間たちの森林伐採や鉄砲技術によって脅かされている現状を憂い、九州から何百頭もの仲間を引き連れてジコ坊やタタラ場の人々との戦いに挑みました。ただ荒々しいだけの野獣ではなく、誇り高く、かつ先を見据える冷静さも併せ持ったキャラクターとして描かれています。
乙事主の名前の由来と、猪神一族が背負った宿命
乙事主という特徴的な名前の由来は、宮崎駿監督の作品にたびたび見られる独自の命名センスに由来します。劇中の舞台や設定における「乙事(おっこつ)」という地名、あるいは「神主」としての神聖な立場を掛け合わせたものとされています。
猪神一族は、かつては人間と共存あるいは一定の距離を保っていましたが、文明の発展と鉄砲という近代兵器の登場によって、その生存基盤を急速に奪われていきました。彼らは森の主としてのプライドと、仲間たちの生存を守るために戦うという避けられない宿命を背負っていました。タタラ場を率いるエボシ御前との戦いは、自然文明と人間文明の衝突という、作品全体のテーマを象徴する重要な局面に位置づけられています。
乙事主とモロの君の関係性:世代を超えた古き森の絆
シシ神の森には、乙事主の他にも強力な主級の動物たちが暮らしています。その代表格が、サンの育ての親である山犬の女王・モロの君です。二人は長年森を守ってきた古くからの顔見知りであり、深い信頼関係と、時には互いを牽制し合うライバル関係にありました。
モロの君は、人間の愚かさやジコ坊らの策略を冷徹に見抜き、乙事主が無謀な総攻撃を仕掛けることに対して警告を発していました。「人間に勝てやしない」と冷ややかな現実を突きつけつつも、同じ森の主としてその苦悩や誇りを誰よりも理解していたのがモロの君です。この二人の対比が、もののけたちの組織力やそれぞれの生存戦略の違いを鮮やかに浮き彫りにしています。
| キャラクター名 | 種族・役割 | 人間に対するスタンス | 主な特徴・最期 |
|---|---|---|---|
| 乙事主(おっことぬし) | 猪神の一族の長(高齢の巨獣) | 一族を引き連れ、全面戦争を挑む | 深手を負い、憎悪に飲まれてタタリ神と化す |
| モロの君 | 山犬の一族の女王(三つ目の賢獣) | 人間を警戒しつつ、冷静に状況を分析 | 首を切り落とされても執念で生き延び、最期まで戦う |
乙事主がタタリ神になってしまった悲劇の経緯
乙事主の運命の転換点は、ジコ坊たちが仕掛けた巧妙な罠でした。人間たちは死んだ猪神の皮を被り、猪の一族に変装して乙事主たちの警戒心を解き、奇襲を仕掛けました。
仲間たちが次々と銃弾に倒れ、自身も重傷を負った乙事主は、極限の苦しみと怒り、そして絶望にとらわれます。「人間の醜い罠によって一族が全滅した」という強い憎悪が、彼の精神を蝕み、ついに物語序盤にアシタカを呪ったものと同様の「タタリ神」へと変貌させてしまいました。
肉体が黒い無数の寄生虫のようなものに覆われ、巨大な怨念の塊と化した姿は、かつての神々しい猪神の面影を失い、周囲の味方であるはずの生き物すらも飲み込む悲劇的な存在へと成り果ててしまいました。
乙事主の最期とシシ神による救済、そして名言の真意
タタリ神と化した乙事主は、正気を失ったままアシタカやサンが待つシシ神の池へと突き進みました。サンは変わり果てた乙事主を救い出そうと必死に呼びかけましたが、憎悪に取り憑かれた乙事主はサンをも飲み込もうとします。
そこに現れたのが、生と死を司る「シシ神」でした。シシ神は乙事主とモロの君の首(または命)に触れ、乙事主の苦しみを鎮めるかのように、その命の光を静かに回収しました。タタリ神としての呪いから解放された瞬間、乙事主は穏やかな表情を取り戻し、静かに眠るようにその最期を迎えました。
劇中で発せられる「人間の小者どもめ」「わしの誇り高い一族は、みんな死んでしまった」といったセリフは、文明に敗北していく自然の悲哀と、一族の長としての重責を背負った者の切実な叫びとして、多くの視聴者の心に強い印象を残しています。
乙事主の声を演じた声優:森繁久彌氏の圧倒的な存在感
この重厚で複雑なキャラクターである乙事主の声を担当したのは、日本演劇界の巨匠であり国民的俳優であった森繁久彌(もりしげ ひさいや)氏です。
当時すでに高齢であった森繁氏の、年輪を重ねた深みのある声質と圧倒的な表現力が、乙事主が持つ「長としての威厳」「老いてなお衰えない戦意」「そして人間に対する深い絶望」を見事に具現化しました。アニメーションの声優としての出演は極めて異例でありながら、作品のクオリティを一段と引き上げる決定的な要素となりました。
【もののけ姫乙事主】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:乙事主がタタリ神になってしまった直接の原因は何ですか?
A1:人間たちが死んだ猪神の皮を被って偽装し、乙事主たちを油断させて奇襲を仕掛けたことです。仲間が全滅していく絶望と重傷による苦痛が、強烈な憎悪を生み出しました。
Q2:乙事主とウリ坊たちの関係はどのようなものですか?
A2:乙事主は九州から遠征してきた猪神一族の総帥であり、劇中で行動を共にした若いイノシシたちは彼の直系あるいは一族の誇り高い戦士たちです。
Q3:乙事主の声を演じた森繁久彌さんは、他にどのようなジブリ作品に出演していますか?
A3:宮崎駿監督作品においては、『もののけ姫』の乙事主役が唯一の出演であり、日本映画史に残る貴重なアフレコ共演となりました。
『もののけ姫』における乙事主は、単なる敵役や作中のアクセントではなく、自然界が直面した抗えない運命と、誇り高き命が文明の前に散っていく様を体現した極めて重要なキャラクターです。
人間側の都合によって生活圏を脅かされ、タタリ神という最悪の姿に堕ちながらも、最後はシシ神によって救済されたその生涯は、現代を生きる私たちに対しても自然との共生や生命の尊さについて深く考えさせる普遍的なメッセージを投げかけています。